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東京高等裁判所 昭和56年(行コ)95号 判決

控訴人(原告) 学校法人大阪電気通信大学 外一九名

被控訴人(被告) 私立学校教職員共済組合 私立学校教職員共済組合審査会

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

(以下、控訴人学校法人大阪電気通信大学を「控訴人大学」と、控訴人大学以外の控訴人らを「その余の控訴人ら」と、被控訴人私立学校教職員共済組合を「被控訴人組合」と、被控訴人私立学校教職員共済組合審査会を「被控訴人審査会」と、それぞれ略称する。)

第一双方の申立て

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人組合に対する請求

(1) 主位的請求

被控訴人らの昭和四九年一二月一一日付組合員資格取得年月日訂正確認申出に対し被控訴人組合が同五〇年一一月六日付をもつてした右訂正申出を拒否する旨の処分を取消す。

(2) 予備的請求

その余の控訴人らの組合員資格取得年月日が別紙記載のとおりであることを確認する。

(3) 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人組合の負担とする。

3  被控訴人審査会に対する請求

(1) その余の控訴人らが昭和五一年一月九日した審査請求に対し被控訴人審査会が同年八月一〇日付をもつてした右請求を却下する旨の裁決を取り消す。

(2) 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人審査会の負担とする。

二  被控訴人ら

主文と同旨

第二双方の主張

当事者双方の事実上及び法律上の主張は、次のとおり付加(実質的な訂正を含む。)するほかは原判決事実摘示中、控訴人らと被控訴人らに関する部分と同一であるから、これをここに引用する。

一  控訴人ら

1  本件通知の行政処分性について

(一) 原判決が、私立学校教職員共済組合法(「法」)の解釈上、教職員等は、教職員等になることによつてその日から組合員の資格を取得するとともに当然に他に何らの行為を要することなく法所定の具体的法律関係が生じ、組合員の資格の取得と被控訴人組合による控訴人らの組合員資格取得年月日の確認とは関係がないと解しながら、同法三六条一項の「資格……に関する決定」との関係では、確認行為のみが行政処分であつて、その反面、本件通知は「資格……に関する決定」に該らないと解することは、前後矛盾する。

(二) 行政庁が応答の義務を負う前提としての「法令に基づく申請」とは、法令上申請をすることができる旨の明文の規定がある場合に限られず、当該法令の解釈上、申請権があると認められる場合が含まれるのであり、組合員資格が法定の要件を充足した場合に当然に取得されるものであれば、これと異なる確認行為に対して真実の取得時期への訂正を求めることは当然認められるべきものである。

(三) 被控訴人組合が「組合員の資格事項の二年を超える遡及処理に伴う補てん金に関する事務取扱要領」を制定していることや、事実調査をしていないにもかかわらず事実が確認できないことを理由に本件各申出を拒否したことは、組合員資格の二年を超える訂正が事実上の措置ではなく法律上の要請であることを被控訴人組合自らが前提にしていることの証左である。

(四) 被控訴人組合は、控訴人らの本件各申出を自らが定立した遡及処理方針に従つて処理する義務がある。

(1) 被控訴人組合は、組合員資格取得の確認が新たな法律関係を形成するものではなく、法律関係の存否を確定する行為であつて、資格の取得は法所定の事由が発生したときに当然に生じ、その法律効果は、これらの事実が発生した日に遡つて生ずるという認識を有しており、この前提のもとに昭和四七年一〇月二六日、「事実が明白に確認できる場合は、」二年を超える遡及処理も、「遡る二年を超える期間にかかる組合の受けた損失を補填することを条件に認めることができる。」という遡及方針を決定し、これに基づき同四八年四月二四日「組合員の資格事項の二年をこえる遡及処理に伴う補てん金に関する事務取扱要領」(甲第四九号証)を制定した。この要領は、組合が遡る二年を超える期間の組合員の資格に関する事項などを確認するときは、予めその組合員を使用する学校法人等から補てん金の納付に関する承諾書の提出を受けるものとし、その補てん金の金額、計算方法や納期限その他の事務上の取扱いを定めたものである。

(2) 控訴人らは、昭和四九年一二月一一日被控訴人組合に対し本件各申出をしたが、その申出にあたり、被控訴人組合の前記遡及方針に基づく指導、教示のもとに、「補てん金納付誓約書」を添付し「出勤簿」等の証拠を提出していたところ、被控訴人組合は、同五〇年一一月六日控訴人らに対し本件通知をなした。

(3) 被控訴人組合は、昭和五〇年一一月二一日、従来の処理方針を変更し、二年を超える遡及処理は認めないとするに至つた(乙第一二号証)。右変更の理由は、判定の困難さや事実確認の不可能など事実上の根拠によるものであり、法律上の理由によるものではなく、むしろ、「掛金の時効消滅した期間は、組合員期間にしないという法文がないため、文理解釈上は、古い期間でも組合員期間として確認せざるを得ない。」としており、従来の処理方針が正当であることが認識されていた。この改正後の処理方針は昭和五〇年一一月二一日に決裁されたものであるにもかかわらず、その実施は起案日である同年一〇月二一日からとされていた。しかし、経過措置として「実施前に受付けた文書の取扱い」は、「従前の例による取扱いとする。」ことが明記されていた。しかるに、被控訴人組合は、改正処理方針の実施前になした控訴人らの本件各申出につき従前の取扱い方針に従つて処理すべきであつたにもかかわらず、これをなさず、改正後の処理方針によつて処理してしまつたのである。

(4) 改正処理方針には、「この方針の取扱い期間については、関係条文の法改正を行うまでの間の暫定処理として扱う」ことを定めているが、これは、保険料徴収権の時効消滅期間と組合員期間との関係を明定した厚生年金保険法の条文などを念頭においたものであつて、このことは、被控訴人組合自身、組合員の資格取得年月日の遡及に関し、現行の私立学校教職員共済組合法の解釈上は、控訴人らの主張どおり取扱われるべきことを自認したうえで、その改正問題に言及しているものである。

2  確認の利益について

(一) 原判決が、退職後の給付決定に対する争訟手続があることを理由に本件訴えの確認の利益を否定しながら、組合員資格取得届出から相当期間経過後に遡及を主張して長期給付を請求することを制限するということは矛盾である。

(二) 組合員資格は法定の要件を満たしたときに当然に取得するのにもかかわらず、一旦被控訴人組合によつて組合員資格取得時期が確認された場合、真実に是正する手段が被控訴人組合の事実上の事務取扱上の措置に期待する以外、法律上は無いということになれば、本来組合員資格の取得やその取得時期に関係のないはずである確認行為によつて、組合員資格の取得が決定されるという不当かつ矛盾した結果となる。

二  被控訴人ら

1  本件通知の行政処分性について

(一) 法一五条は、法一四条に定める組合員対象者が教職員等になることによつて、当然に組合員の資格を取得し、具体的法律関係が発生する旨を定めている。学校法人は、教職員を新たに就職させたときは一〇日以内に資格取得報告書を被控訴人組合に届出るべきことが法定され、これに対し被控訴人組合において、資格取得の確認通知書を学校法人を経て組合員に送付するが、被控訴人組合における右資格取得の確認は、単なる事実上の事務上の措置であつて、同措置が組合員の法律上の地位ないし資格に影響を及ぼすものではない。

(二) 被控訴人組合は、本来の行政庁とは異なるもので、私立学校教職員共済組合法によつて設置された特殊法人であり、その意思決定がすべて行政処分性を有するものではなく、法において特に明定されている場合即ち法三六条一項所定のものに限り行政処分として擬せらるのであり、本件通知は、これに該らない。なお被控訴人組合の資格取得確認行為も、法三六条一項の「資格……に関する決定」に該らないが、これに該ると解する余地があるとしても、審査請求の対象となるのは、被控訴人組合の確認それ自体であるから、右確認にかかる審査請求期間を徒過した後の訂正申出に対する被控訴人組合の回答(本件通知)が、「資格……に関する決定」に該当しないことは、明らかである。

(三) 被控訴人組合の遡及処理方針は、被控訴人組合内部の事務取扱上の指針であり、控訴人らに対して当然に組合員資格取得年月日の訂正義務を負うべき性質のものではなく、右方針に基づき定められた掛金の補てん自体、法に定めはなく、またその合理的な算出方法もない。被控訴人組合が過去において右方針にのつとり資格取得年月日の訂正をしてきたことはあるが、これは法律上の根拠に基づかない便宜上の措置であつて、かかる事実上の取扱自体をもつて、本件通知が行政処分性を有するとか本訴の確認の利益があるということにはならない。

2  確認の利益について

(一) 現在控訴人らと被控訴人組合との間に具体的な権利又は法律関係についての紛争は存在しないのであり、控訴人らの長期給付受給権は未だ発生しておらず、これをめぐつて具体的紛争が生ずるかは不確定であり、資格取得の時期を確定しても長期給付をめぐる紛争の実効的解決に役立つという保障はないのであるから、本訴の確認の利益はない。控訴人らの長期給付の受給権が発生したときに始めて組合員期間の長短が給付の内容に影響する限度で受給権をめぐる具体的紛争が具体化するもので、これについては給付決定に対する審査請求、行政訴訟などの争訟手続により抜本的に解決することが可能である。

(二) 法の定めに違背して資格取得の届出をなさず、相当の期間の経過後に虚偽の届出をなし、したがつてこの間の掛金の支払を免れながら、当然に右の期間を組合員期間に通算して有利に長期給付を受け得るとすることは、相互扶助事業である共済制度を根底から覆す結果となる。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一  当裁判所は、控訴人らの被控訴人組合に対する主位的請求及び予備的請求に関する訴えをいずれも不適法として却下すべく、その余の控訴人らの被控訴人審査会に対する請求をいずれも失当として棄却すべきものと判断する。そしてその理由は、次のとおり付加するほかは、原判決理由一、二及び三の1(原判決二一丁表二行目から同三四丁表二行目まで)と同一であるから、これをここに引用する。

1  控訴人らは、被控訴人が組合員資格取得年月日の遡及訂正に関し従前から行なつてきた取扱いは法律上の要請であつて被控訴人組合は自らが定立した遡及処理方針に従つて本件各申出を処理する義務があり、したがつて本件通知は行政処分(法三六条一項の「資格……に関する決定」)であり、被控訴人組合に対する予備的請求に関する訴えの利益もある、と主張するので検討する。

(一)  組合員の資格取得の手続に関する被控訴人組合の主張事実(原判決事実第三、一、1、(一))は当事者間に争いがない。

(二)  右争いのない事実と成立に争いのない甲第一号証の一ないし四、第二ないし第五号証、第四六、第四七号証、第四九号証(原本の存在も)、第五〇号証の一、二、乙第二ないし第五号証、第一二、第一三、第一五号証、成立に争いのない甲第五二号証の二により成立を認める甲第五二号証の一、原審証人鷲津惠得、同竹田一民、当審証人田中政太郎の各証言によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 被控訴人組合は、かねて、学校法人等が提出する組合員の資格取得報告書(正副二通)に記載された組合員の資格取得年月日や給与月額を証明する資料の添付を要求せず、右報告書の記載の不備や不審な記載を審査するのみで組合員資格を「確認」し、組合員の記号番号、種別、標準給与の等級及び月額を決定して、学校法人等に資格取得確認通知書(報告書の副本)を送付していたもので、昭和四八年ころ電算機が導入された後は、資格取得報告書の副本は学校法人等の控とされ、電算機処理結果が被控訴人組合から学校法人等に送付されるようになつた。

(2) 被控訴人組合は、法の性格に関し、組合員資格等の身分関係については、使用者である学校法人等と共済事業を行なう被控訴人組合とが別個であることから、同じように事業主と保険者とが異なる厚生年金保険法等の民間社会保険法の体系に属し、保険給付関係については、法が国家公務員共済組合法の規定を準用していることから同法の体系に属するものと理解し、組合員資格の確認及び遡及確認(訂正)について当初は社会保険法の取扱いに準じて法が定めた掛金徴収権の消滅時効期間と同一の二年を遡る組合員資格事項の確認はしないとの方針で内規を定めていたが、その後事実確認が可能な期間は組合員資格の遡及確認を認める方針に改め、更に昭和四六年一〇月二六日には、遡及期間は原則として二年とし、特別の事情のあるものは、補てん金(掛金相当額及びその利息相当額)の納付を条件として資格事項の遡及確認を認めることとし、昭和四八年四月二四日、右方針に基づき、組合員の資格事項の二年を超える遡及処理に伴う補てん金に関する取扱要領を定めた。

ところで、組合員資格事項の遡及処理事案は極く稀にしかなかつたが、昭和四八年以降私立学校における定年制の制定実施が問題とされるに及んで、私立学校の中に作為的と思われるような或は虚偽の疑いのある資格取得年月日を報告している事例や組合未加入者が多数いることが判明し、被控訴人組合は、従来の取扱いでは、古い時点の事実確認は実際上不可能であるうえ組合員間の不公平が生ずる虞れがあるとして、昭和五〇年一一月二一日遡及処理は事実確認の日から二年までの期間を限度として認めることに方針を変更し、右方針を同年一〇月二一日(起案日)から実施することとし、実施日前に受付けた文書は従前の例によることとした。

(3) 被控訴人組合発行の職員共済事務の手引にも、学校法人等が組合員資格取得等報告書を提出後、報告事項を訂正するときは、組合に対し、代表者名による訂正願を提出すること及び組合員は組合員証の記載内容が事実と相違するときは直ちに学校を通じて訂正を申出ることと記載しているし、昭和四五年三月及びその後の昭和五〇年二月発行の手引には、資格取得年月日を二年未満まで遡る訂正申立をする場合の添付書類を教示した記載がある。

(4) 控訴人大学は、昭和四八年以降、同校職員組合との間で定年制導入について交渉していたが、同組合が、控訴人大学において被控訴人組合に対し、その余の控訴人らの組合員資格取得年月日を遡つて訂正申出をすることを条件の一つとして定年制に同意したことから、本件各申出をなすと共に資格取得年月日訂正に伴う補てん金納付誓約書を差入れた。これに対し被控訴人組合は、その余の控訴人らが、その主張する採用年月日に真実教職員になつたこと、その後訂正申立期間を継続して勤務していたこと及びその間の給与額を確定するに足りる信用すべき証拠がないとして、昭和五〇年一一月六日控訴人大学に対し、二年以上遡る誤報告の訂正である本件各申出につき誰が見ても疑う余地のない事実関係を証明するものがない旨を記載した本件通知をなし、その後被控訴人組合の担当者が控訴人大学の担当者と面接して、本件は共済制度以前の問題であつて、全国の学校と全組合員の公平の立場から本件各申出を取りあげかねる旨伝達し、更に被控訴人組合は昭和五一年一月二二日、控訴人大学に対し本件各申出を認められないのは、証拠不十分のほか諸般の事情を勘案して綜合的に判定した結果であると補足回答した。

(三)  先に原判決を引用して説示したとおり、厚生年金保険法は被保険者資格の得喪の効力を確認という行政処分にかからしめている前提のもとに確認の請求の制度を設け、都道府県知事は、事業主の届出若しくは被保険者又は被保険者であつた者からの随時の確認請求により又は職権で行うものとし、保険料を徴収する権利が時効によつて消滅したときは当該保険料にかかる被保険者であつた期間に基づく保険給付は行わないこととし(右届出又は右確認請求の後に保険料を徴収する権利が時効によつて消滅した場合を除く。)、被保険者の資格に関する処分が確定したときは、その処分の不服を当該処分に基く保険給付についての不服の理由とすることができないものとするなど順次改正して整備されており、健康保険法や船員保険法も保険者や知事のなす確認を効力要件(厚生年金保険法の場合と同様、効力の発生は、確認の日ではなく法定事実発生の日と解される。)とし、被保険者又は被保険者たりし者は何時にても確認の請求をなしうるし、確認は事業主からの報告や船舶所有者からの届出又は職権でも行なうこととされているが、その他の規定は必ずしも前掲厚生年金保険法の規定と同一ではない。ところが、農林漁業団体共済組合法は、法定の職員は、職員となつた日から組合員の資格を取得するとして、確認を効力要件とする規定はないにも拘わらず、組合員、組合員であつた者又はその遺族は、何時でも確認の請求をなしうるものとし、組合は団体からの届出又は確認の請求があつた時は遅滞なく審査すべきものとされ、届出又は確認請求後に時効消滅した場合を除き掛金を徴収すべき権利が時効消滅したときは、当該掛金にかかる組合員期間は給付の基礎となるべき期間に算入しないものとしている。

(四)  ところで、法は、先に原判決を引用して説示したとおり、ある者が同法一四条に規定する教職員等になることにより当然に何らの行為を要することなく組合員資格を取得すると共に同法所定の具体的法律関係が生ずるものとしているものと解すべきであり、被控訴人組合の行なう資格取得の確認は、法の定めた組合員資格の取得の法律効果には何のかかわりもない事柄といわなければならない。しかしながら、農林漁業団体共済組合法のように、組合員資格の取得の法律効果とは無関係に確認請求を認めているものもあるから、確認が法律効果とは無関係であることのみから、確認請求と同視しうる資格取得時期の訂正申立である本件各申出権を認めえないということはできないが、前同法も随時の確認請求を認めると共に、掛金徴収権の時効消滅と保険給付との調整規定を定めているのであつて、これと前掲各法律における確認規定の差異がそれぞれの保険ないし共済制度の基盤や性質に応じた立法政策から生じているところがあるものと思われること等の事情を考えるならば、本件の場合に明文の規定なしに法の不備として農林漁業団体共済組合法の規定のうち確認請求規定のみ(前記調整規定の準用は、なしえない。)の準用を認めると解することはできない。むしろ前記認定の被控訴人組合による具体的確認行為の実態と法の規定の仕方を考えれば、法は、学校法人等からの資格取得報告書の記載が単純な誤記なり誤解に基づく過誤によるもののほかは、真実と異なつて報告されるようなことは全く前提としておらず、本来的な訂正申立権なるものは予定していないものと解することができる。更に被控訴人組合が遡及処理方針を改変する経過をたどつたのは、前記認定のとおり、組合員資格の取得は法一四条の教職員等になることによつて当然に生ずるが、被控訴人組合が学校法人等に対し組合員資格確認通知書ないし電算機処理結果(又は組合員証)を交付する取扱いをしていた関係上、右確認通知の前提となる確認は、事実の確認であり、そうである以上真実の資格取得年月日等の遡及訂正は認めざるを得ないものと解しながら、一方、法が掛金徴収権が二年の消滅時効にかかつた場合における保険給付との調整規定を定めていないことから、その不合理に苦慮しつつ、極く稀な訂正事案の具体的妥当性を追究してきたものであるが、前示予想外の事態が生じて来たことにより方針変更を余儀なくされた事情を示すものであつて、補てん金納付誓約書は時効利益の放棄に該るとはいえ、被控訴人組合の取つた組合員資格事項の遡及処理は何ら法的根拠に基づくものではなく、前記遡及処理の変遷自体が、遡及処理が事務取扱上の事実上の措置であることを示しているものというべきである。

(五)  被控訴人組合は事実上、自ら定めた遡及処理方針にのつとり事実関係が明確である限り本件各申出を認めて差しつかえなかつた訳であり、前記認定によれば、事実審理が十分行なわれたか否かはともかく、一応本件各申出当時の遡及処理方針にのつとり審理がなされたものと認められる。

2  以上のとおりで、被控訴人組合が遡及処理の取扱いをしていたからといつて、それは、本件通知が行政処分であることや被控訴人組合に対する予備的請求に関する訴えの利益のあることの根拠とはなり得ない。

3  その余の控訴人らが、将来の長期給付請求等の関係から今のうちに資格取得年月日を有利に主張して訂正したい気持も理解できなくはないが、法的には、あくまで将来生じうべき法律関係についての不安にとどまるのであつて、現在この点を公権的に確認(本件における年月日が一種の法的関係と解しても)すべき利益は存しないといわざるをえない。

二  してみると、右と同旨の原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小堀勇 吉野衛 山崎健二)

別紙 その余の控訴人らの組合員資格取得年月日〈省略〉

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